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ニジム小ネタ

透火とハーク

「私には分かりませんが、誕生日にその方の誕生を祝うのでしたら……少し、おかしいのではないでしょうか」

無表情のまま透水と芝蘭の様子を見つめ、ハークが言う。

「そうかな?」

芝蘭と透水が口喧嘩をするのは仲の良さからくるものだ。

それが微笑ましくて、同時に嬉しくて、だから透火は今日という日を好きになれた。拾われたからだけではなく、その先にある喜びを毎年感じさせてもらえるから。微笑みに想いを隠して隣を見ると、じつとした眼差しがそこにある。

「お誕生日おめでとうございます、基音」

小さく薄い唇が、可憐な声を紡ぐ。

「貴方の誕生は彼らも含め、世界が祝福するものですわ。ですので、私からもお祝いの言葉を」

常に無表情の顔が、微かに笑ったように見えた。

「貴方に出会えて、嬉しく思いますわ」

「…………あ、」

耳が熱くなって、一瞬、思考が途絶した。

「あ、りがとう……」

「いえ」

幻だったのかと思うほどの短い時間だった。無表情の横顔を見つめたまま透火は固まって、それから徐に、彼女から目を逸らした。顔の半分を握りこぶしで隠して、服の裾を握りしめる。

(……うわ、うわあ……)

自分が今立っている感覚が、初めてのように思えたひと時だった。

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