ニジム小ネタ
- えつ
- 2017年3月7日
- 読了時間: 2分
2巻以降の話/他所様創作キャラクターとクロスオーバー
月のない夜空は、人の目にはとても昏く、心を押しつぶされそうなほど美しい。
「冬の儀から数えて、六度目の晦月(かいき)が訪れた。今宵を境に、冬は厳しくなる」
唇から解き放たれた吐息が、手元の蝋に火を灯す。
ゆらり、ゆらりとささやかな風に遊ぶ火先が照らすのは、第一王子の憂いある表情だ。
淡雪の散る空の下、青白磁の教会服を身に纏い、煌めく光を瞼の奥に閉じ込めて、彼は一拍の沈黙を添える。光の残滓が次にその目に写る時、火は生物のように弧を描いて浮かび、空を舞った。
炎狐が夜空を遊び舞い、灯火が広がる。
「風花の儀を、開催する」
言うなれば、それは地上の星花にして、生命の灯火。
整列する神官と兵士の手元からも、同様にして炎の鳥が生まれる。鳥は王子の頭上を旋回すると、炎狐を追って同じく地上へと飛び立った。
「凍花の季節(コールドスリープ)までのふた月、皆には尽力してもらいたい。共に冬を楽しみ、次の春までの苦しみを、分かち合おう」
唱和はなく、聖歌が彼の代わりに祈りを唄う。
眼下に佇む民を眺め、ややあって、王子はバルコニーから姿を消した。
「……お待たせしてすまない」
芝蘭の第一声はそれだった。透火が招待客である公爵兄妹を饗していることは知っているだろうに、おずおずと入ってくる姿は公の彼とは正反対で微笑ましさが増す。
同じことを思ったのだろう、公爵は朗らかな笑みを浮かべて芝蘭を労った。
「美味しい紅茶に、時を奪われていました」
時間は遡り、早朝。
「お前、何してんだ?」
せっせと銀竜の鞍を掃除している後ろ姿を見つけた占音は、上着を羽織る背中を丸めながら声をかけた。種族の異なる彼にとって、心魔の土地は寒さが厳しく、外を歩くだけで髪が凍るので溜まったものではない。それでも彼が声をかけるだけの理由が彼女にはあり、彼女には、応えるだけの余裕はなかった。
真っ赤になった白い手を見咎めて、一本、黒い髪を術符へ変える。
「いくら平気でも、そのまんまだと凍傷になるぞ」
差し伸べた熱に目が覚めたように彼女が顔を上げる。
「まあ。……ありがとうございます」
ぱちぱちと目を瞬かせる姿が幼い子供のようにあどけなかったので、占音はそれ以上の苦言を飲み込むことにした。
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