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自創作の二次創作

[虹の向こうへ]の二次創作。ファンタジー。

---------------------------------------------------------- 2016/10/30公開

これは、人と吸血鬼が同じ場所で暮らしていた時のお話。

とある村に住む村娘ハークは、今年、その村を守る吸血鬼に血を捧げる贄の役となっていました。 「に、贄……?」

村長が言うことには、毎年一人、若い娘の生き血を捧げる代わりに、村に襲い掛かるあらゆる災厄から守ってくれるそうです。昨年贄役となった少女ナイシャが言うことには、昨年贄役となった少女ナイシャが言うことには、「ひょろい男だし人差し指からちょっとしか血を吸わないから平気よ。怖がる必要はないわ」と、贄という言葉の仰々しさに反して、あまり怖さを感じない存在の様でした。 「私(わたくし)の血……が、村の為になるなら……」 引き受けたものの、それでも怖いものは怖くて。 贄は、収穫祭の夜、教会に向かい、祭壇前で立っていなくてはなりません。 その日がやってくると、ハークは何度も教会を出入りし、間取りの確認をしました。夜は灯りが全て消される為、足元がよく見えないのです。 「こ、怖くなんか……ありませんわ」 ぎゅ、と震える拳を握りしめ、家で夜を待ちます。

時間がきました。 とっぷり暮れた夜の下、小走りに駆けて教会に向かいます。白と黒金色のワンピースに、白タイツと青ヒール。銀髪がよく映える姿でしたが、誰も彼女を気に留めません。 「こんばん、は……」 ギギィ、と音を立てて、中へ入ります。 祭壇の前までくると、両手を組んで、祈る様にハークは目を閉じました。 「贄役として、参りました」

静寂に、ハークの声が響きます。

どれくらいそのままでいたのでしょうか、不意に、生き物の気配を背後に感じました。

「こんばんは」

「っ!」

耳元で囁かれた声に、ハークは息を呑みます。 「嬉しいな。今年の贄役はおとなしいお嬢さんなんだ」

成人男性らしき腕が、背後から優しくハークを抱き締め、肩に擦り寄ります。視界の端に踊る髪色が薄くて、ハークの銀髪なのか、彼の髪なのかよくわかりません。どきどきしながらハークが震えていると、 「あ、ごめんなさい。お腹が空いてて、つい」

と彼はパッと離れて謝りました。ゆっくりと、ハークは振り返ります。そして、暗闇に浮かぶ青年の姿に、目を見張りました。

「初めまして」

恭しくお辞儀をする彼の顔の美しさは、言葉では言い表せません。 透き通る様な金の瞳が、黄金の獣の様に鋭く光り、ハークの身体を品定めします。

「どこから頂いていい?首?手?去年は指先だったけど」

「あ、わ、私は……その」

思うよりも理想的な吸血鬼の姿に、ハークは戸惑ってしまいました。一度、そう、この一度だけでしか彼に会えないことが、とても残念に思えたのです。 「?」

鈍いのでしょう。真っ赤な顔で悩むハークに、吸血鬼の彼は笑顔で首を傾げます。心臓が焦って、言葉がまとまりません。 「あ、の……」 ハークが続く言葉を言いかけた時、暗がりから声がしました。 「ハークに近付くな!」 現れたのは、貴族の格好をした少年でした。不思議なことに、彼の頭には猫の様なミミが付いており、皺一つないズボンのお尻側から、ひょろひょろとした黒い尻尾が伸びています。まるで、猫と人間を組み合わせた様な格好でした。 「化け猫?ハーク、君のかな?」「いえ、私、知りませんわ……」「知らない!?」首を傾げたハークに、黒猫の少年がショックを受けた顔をします。身長はハークの肩ほどもないので、その様子がとても可愛らしく見えました。「お前の飼ってる黒猫シランだ!贄になると聞いたから、慌てて人間の姿を借りたんだ!」 「と、言われましても……」「お前のことならなんでも知ってるぞ!言わないけど!」「あ、そこは言わないんだ」紳士だね、と吸血鬼は余裕の笑みを傾けて、黒猫の頭を鷲掴みます。「でも、今は邪魔だから」片手でぽいと投げ捨てるので、ハークは慌ててシランに駆け寄りました。 「怪我はしてませんわね?」 「してないけど痛い」 ぎゅ、とハークのお腹に抱きつくシランの姿は、確かに猫の時と似ています。 「困りましたわね……」 彼の登場は嬉しいけれど、ハークと吸血鬼の逢瀬は今だけ。彼が心配するほどでもないのです。 「ごめん。ほんっとにお腹すいたから貰っていい?」 空腹で気品を失ったらしく、吸血鬼が気安くハークの手に触れます。シランがそれに怒り、爪を立てて威嚇しました。 「わ。危ないな」 「触るな触れるなあっち行け」 「猫のくせに生意気だよ」 ぺん、とデコピンをされて、黒猫の尻尾が驚きます。 「何するんだ!」 今度こそ怒った黒猫が、ハークを離れて吸血鬼に頭突きをします。がん、と、とても痛そうな音が聞こえました。そして実際痛かったのでしょう、シランは頭を押さえ、吸血鬼は顎を押さえて震えています。 「え、わ、うわ!」と、吸血鬼が慌てた様に手のひらを開きました。 コロン、と落ちてきたのは尖った犬歯。どうやら、頭突きの弾みで折れてしまった様です。 「ええ!?うわあ、どうしよう!どうしてくれるんだよこの黒猫!俺はまだ犬歯がないと血が吸えないのに!」 「そんなの、俺が知るか」 「ええー、村長さんにお話ししなきゃ……。贄の子、ごめんね。もう大丈夫だから」 「え」 何が起きたのかわからないハークをおいて、吸血鬼がスタスタと教会の奥に行こうとします。 「あ、あの!でも、貴方は先ほど空腹だと言って……」 「流石に俺でも、傷をつけてまで吸おうとは思わないから。気にしないで」 グルルルルルルル、と咆哮のようなお腹の音が聞こえましたが、吸血鬼は歩いて行ってしまいます。 「ま、お待ちください!私は平気ですわ、だから」 「邪魔するぜ!」 バターン!と大きな音ともに軽やかに扉が開かれ、白衣の青年が現れました。丸い眼鏡の奥に黒目を輝かせて、頭にカボチャをつけた青年はにやりと笑います。 「見つけたぞ、吸血鬼!」 後に、村長から教わったことには、現れた黒髪長髪の青年は何百年も吸血鬼の研究をしている腐人間で、占音と言うそうです。 この村の吸血鬼トウカは、先代の吸血鬼から引き継いだばかりで幼く、犬歯が丈夫でないので回復するまでは輸血パックが必要になるだろうということも教えてもらいました。 そして、黒猫シランは主人の危機を守るべく人型になったものの、戻り方がわからなくなってしまったということです。 「それで、あの……私は?」 「お前には悪いが、贄とならなかった代わりに、彼らのお世話がかりを頼みたい。やってくれるな?」 それはつまり、ハークがまだしばらく、あの吸血鬼と共に居られるということでした。 「勿論ですわ」 まさかの結末に、ハークは一人喜びました。

おしまい

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