ニジム小ネタ 古い話(初期設定版)
初期の初期の方の透火と芝蘭の話
初期の透火:
寡黙がちな少年、口が悪い、髪の毛が今よりも長い、芝蘭に拾われたのは一緒だがそれを枷のように感じている、何かを赦すなら芝蘭以外に他はないが何を赦すのかはよくわかっていない
初期の芝蘭:
王子らしい、傲岸不遜、口は悪い時といい時と使い分けている、透火のことを人形か何かだと思って扱う節があるが彼自身は猫を飼っているようなものだと思っている、無自覚で透火のことを好んでいる
透火の主人は、豪胆だが狡猾で、父親に似ていながら愛情深い一面を持っている。
果たしてその愛情が一般的なものなのかといえば、おそらくそうではないのだが、透火の命を救ったというただそれだけのことを宝物のように大事にし続ける姿を見ていると、なるほどこれも愛情深いと言えるのではないかと、そう思っただけのことだ。
普段の彼は、透火も含め、淡白に意地悪く接する。召使一人一人の顔を覚えているくせに、覚えていないような顔で声をかけ、近況を尋ねては後でこっそり騎士に頼んで相応に褒賞を与えている。
「面倒臭い主人だ」
木の幹の上でのんびりと昼寝をしながら、透火はひとり主人を毒づいた。
今も視界の端には、廊下の隅に立って騎士と執事と談笑する主人の背中が見えている。
従者というよりは傭兵に近い透火は、日の出ている時だけ自由時間を与えられる。それでも主人以外の人目はうるさいもので、仕方なく、目に見える形で城を警備していることを示していた。無論、その姿勢で警備をしていると思われるかは、別である。
「透火」
声をかけられた気がしたが、無視をした。日中は自由にしていいと命じたのは彼だからだ。
「透火、茶会だ。来いよ」
「なんでですか」
目を閉じたまま返答し、背中を向ける。今は確かに自由時間だが、主人の気まぐれに付き合っている暇はない。
「お前の夕食を抜きにされたくなければ今すぐ来い」
「……別に、一食くらい」
胃袋を丸掴みされていることは、自覚している。それでも抗おうと思ったのは、単純に、貴族達の茶会で見世物にされることが目に見えているからである。
「中庭です。王子の育てた薔薇が、見事に咲いたそうですよ」
「! う、わっと」
突然聞こえた騎士の声に、体勢を崩した。木の幹からずるりと手が滑り、枝につかまろうとするも手袋のせいで掴み損ねる。地面との衝突を背中に覚悟したが、いつまでたっても衝撃は来ず、逆に背中から何かに支えられた。
「捕まえた」
嬉しそうに笑うその顔が、意地悪く見えないのは、透火が随分主人に絆されてしまったからだ。
「……だから、アンタは性質が悪いと」
「そうか」
「いっ!」
出し抜かれたことに恥ずかしがる暇もなく、尻もちをつく。
気まぐれに振り回されたのだと嫌でも理解して、静かに立ち上がった。
「帰る」
「お前の帰る場所は俺の部屋だろう」
すかさず手首を掴まれ、反射で舌打ちする。
「お前が居ない間は俺の部屋だ」
「それは違うな」
あまりに堂々と、勢いよく腕を引いて断言されるものだから、契約内容を履き違えたかと脳がフル回転する。
睨めつけるように見上げる透火をにんまりと見下ろし、芝蘭は口元に笑みを浮かべる。
「俺のいる場所が、お前の居場所だ」
透火の主人は、いつだって傲岸不遜にして面倒な人物だ。