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日を常に -3

  • etsu077aikotobakey
  • 2018年3月16日
  • 読了時間: 3分

まるで、そこだけ時間の流れが違うようだった。

正方形の窓が二列三行に等間隔に並び、青い木が木製の壁に柔らかな影を落としている。小さな庭がその店と道路の間にまたがり、縁石の周辺にはつつじの見慣れた緑苔が生えている。

綺麗な花が咲いて目を引くような、そんな明るい店ではない。森の奥にあるといっそう雰囲気のでるような、茶色と緑に閉じ込められた店だ。

家を出て一日も経っていないのに、懐かしい気持ちになって縁石の上を一歩一歩踏みしめて進む。

Openとお洒落に書かれたプレートを確かめて、扉に手をかけた。

「いらっしゃいませ」

からんからんとベルの音が静かな店内に響いた。目の前にはスイーツの並ぶショーケースがあり、その上にレジ台が置かれている。カウンター席につながっているのか、つつじの足では届かない高さの椅子がいくつか並び、テーブル席があった。

声を発したのは、カウンター奥で作業をしている男性だろうか。シャツ越しにゴツゴツとして見える背中が、小刻みに揺れている。

「あの、いらっしゃいませ」

「ひえっ、はい」

店内を見渡した時に、どうして気づかなかったのだろう。もう一人、この店には店員がいた。

つつじよりも背は高く、長い黒髪はところどころが波打っている。エプロンの下に着ているのは体操服のような生地で、プリーツスカートと黒いハイソックスから察するに、アルバイトにきている女子高生だ。

「カウンター席とテーブル席がありますが」

「はい、えっと、ええと、て、テーブル、で」

「お好きな席をどうぞ。水をお持ちします」

つつじとは違い、彼女は表情も変えず卒なく応じると、さっさとカウンターの裏へと入ってしまった。カメラを抱きしめたままで、つつじは慌てて平静を取り繕ったが、見てくれる人はいない。

大人しく、窓際のテーブル席に着き、鞄を下ろして肩の力を抜いた。

穏やかな空間だ。

窓はガラスが丸く切られたあまり見ないもので、向こうとこちらとの間に壁を感じさせてくれる。淡く見えた木陰は優しい黄緑色の光をテーブルに落として、つつじの顔に春の温かさを届けている。

「こちらがメニューです」

「あ、はい」

微睡みに誘われそうになった意識を、女子高生の声に引っ張られる。

目立つような美人でも、つつじの友人のような可愛い感じのタイプでもないが、どこか気を引く雰囲気を持つ子だ。

ぼんやりと彼女の背中を見送ってから、氷が水に溶ける音を合図に、メニューを開いた。

珈琲はまだ砂糖とミルクを入れないと飲めないつつじに、紅茶やカフェオレの文字は味方のように写る。チーズケーキやシフォンケーキ、いちごのタルトなど、つつじが地元では触れられなかったものが並んでいる。

「悩んじゃうなあ」

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